日別アーカイブ: 2020年4月30日

休業と給料の支払い

東京を含め全国的にコロナウイルスによる影響は広範囲に広がっています。

 

売上減少により事業の縮小を余儀なくされたり休業を余儀なくされたりしている

所もあるようです。

売上減少だけでなく,感染者が社内で発生したために事業所が閉鎖され,休業を

余儀なくされることもあります。

これに伴って,休業の際に給料の支払いについてどうしたらよいかについて悩ん

でいる経営者の方もいると思います。

給料が支払われるのかについて悩んでいる従業員の方もいると思います。

 

休業と給料の支払いについては,まず民法で規定されています。

民法536条1項では,「当事者双方の責めに帰することができない事由によって

債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むこ

とができる。」とされています。

これに対し,民法536条2項では,「債権者の責めに帰すべき事由によって債務

を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことが

できない。」とされています。

 

これらの規定を前提にすると,休業の原因が会社側にない場合には,給料は支払わ

れないことになりますし,休業の原因が会社側にある場合には給料は支払われると

いうことになります。

コロナウイルスの影響を踏まえて,会社が自主的に休業した場合には,会社の「責

めに帰すべき事由」による休業として民法536条2項が適用され,給料が支払わ

れるとなるものと思われます。

ただ,この判断は,その時の社会の状況,会社の状況によって変わる可能性があり,

裁判所の判断によっては,結論が変わる可能性があります。

これに対し,感染者が社内で発生したために事業所が閉鎖された場合には,会社の

自主的な休業ではなく,会社の「責めに帰することができない事由」による休業と

して給料は支払われないとなるものと思われます。

ただ,この場合でも,事業所閉鎖に至る経緯によっては,会社側に「帰責性」があ

ると裁判所が判断する可能性もあり,その場合には結論が変わる可能性があります。

 

給料を支払う必要がない,給料が支払われないとしても,休業手当についてはどう

でしょう。

 

労働基準法26条では,「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては,

使用者は,休業期間中当該労働者に,その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払

わなければならない。」とされています。

この手当が休業手当です。

ここにいう使用者の「責に帰すべき事由」については,民法の「責めに帰すべき事

由」と同じであるとすれば,民法上給料を支払う必要がない,給料が支払われない

となってしまいます。

しかし,最高裁判所は,「使用者の責に帰すべき事由」は,取引における一般原則

である過失責任主義とは異なる観点も踏まえた概念であり,民法536条2項の

「債権者の責に帰すべき事由」よりも広く,使用者側に起因する経営,管理上の障

害を含むものと理解するのが相当としています。

これは改正前民法の時の判例ですが,改正後の民法下でも適用されると思われます。

そうすると,民法536条2項に該当し,民法上は給料を支払わなくてもよい,給

料が支払われない場合であっても,休業手当が支払われる可能性はあります。

 

いずれにしても,休業と給料の支払いについては,個別のケースにより結論が異な

る可能性があり,非常に微妙な判断となる可能性が高いものといえます。

会社側,労働者側,いずれの立場に立つとしても,弁護士に相談しながら慎重に対

応するべきだと思います。

 

ただ,労働基準法には,罰則規定があり,違反すると刑事責任を問われる可能性が

あります。

休業手当を支払わなければならない場合か判断に迷うようなケースであれば,会社

側としては,休業手当は支払った方がよい,となるように思います。

なお,給料を支払わなければならない場合の額について,60%の額であると認識

している方がいます。

多くの方が誤解している点ですが,これは,上記のとおり誤っています。

この点は誤解のないように注意しておきましょう。